中小企業白書から読み解くM&A
⽬次
- 1. 経営者にとってM&Aは身近な存在に
- 2. マッチングにおける考え方の違い
- 3. 数字に表れるM&Aの効果
- 4. M&Aで危機を乗り越える
- 5. 著者
中小企業の現状や動向を調査・分析する中小企業白書。毎年、閣議決定後に公表される白書は中小企業にとってバイブルとなっています。2021年版では、M&Aが大きなトピックスになりました。コロナ禍の対応策が特集された第2部「危機を乗り越える力」の中で、「事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用」が章立てされています。M&Aにおける意識調査や統計資料にはじまり、実際にM&Aを実施した企業事例と効果検証などが50ページ以上にわたり解説されています。第2部末尾では「事業承継は、企業が更に成長するための転換点と言える。M&Aもまた買い手・売り手双方にとって企業の成長につながる機会と言える。事業承継やM&Aを通じて、これまで企業が培ってきた経営資源を有効活用し、我が国の中小企業が更なる成長・発展を遂げることを期待―」と結ばれています。コラムでは中小企業白書で示されたM&Aのポイントを中心に解説します。
経営者にとってM&Aは身近な存在に
M&A件数は公表ベースで2012年から増加傾向が続いています。コロナ禍で2020年こそ前年を下回ったものの、2018年以降は年間4,000件前後で推移しています。同様に全国の事業承継・引継ぎ支援センターへの相談数と成約件数も年々増加しており、M&Aの認知度と関心度が高まっています。東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」では、3割近い中小企業の経営者がM&Aの意向を示し、そのうち8割以上が買い手として希望している意識調査もあります。
マッチングにおける考え方の違い
買い手と売り手の希望先には若干の違いがあります。M&Aで希望する相手先企業の業種について買い手は、半数以上が同業種を希望し、業種関連ありを含めると9割を占めます。一方で売り手は異業種が半数近くを占めます。希望する相手先の所在地では、売り手意向の半数近くが国内全域を選択肢に入れる一方で、買い手意向を見ると同一都道府県または近隣希望が7割以上と違いが表れています。ただ相手企業の探し方では、ともに金融機関に依頼することが最も多く、次に専門仲介機関への依頼が続きました。M&A仲介最大手の日本M&Aセンターが成約した2020年度の成約実績では、買い手が希望する同一都道府県かつ同業種のマッチングは全体の1割程度しかなく、他都道府県エリアかつ異業種が3分の1程度を占めたことから、マッチングが買い手意向よりも売り手の意向に近い結果となっていることが分かります。一般的に買い手は成長戦略のため、売り手は後継者不在による事業承継を目的とすることが多い傾向があります。M&Aを決断した中小企業の事例も多く紹介されています。経営者が自ら相手探しをしたケース、事業承継・引継ぎ支援センター経由で後継者を見つけた社長、取引先の地域金融機関に打診した事例などM&Aの形は十人十色でそれぞれに道が広がっています。
数字に表れるM&Aの効果
M&Aが企業を成長させる根拠がデータに表れています。東京商工リサーチがまとめた「企業情報ファイル再編加工」によると、M&A実施企業と非実施企業を比べた場合、売上高成長率(中央値)と営業利益成長率(同)のいずれもM&A実施企業が非実施企業を上回る数字が出ています。特に営業利益成長率では非実施企業の中央値がマイナスとなるなか、M&A実施企業はプラス成長で大きな違いがありました。結果的にM&A実施の有無と売上高成長率、営業利益成長率との間には相関関係があり、M&Aが営業利益率の向上に大きく貢献している可能性があると紹介されています。
M&Aで危機を乗り越える
事業承継やM&Aを行い、新たな取り組みにチャレンジする中小企業が数多くあります。事業承継は企業の成長と発展のためにも重要です。事業承継の手段であるM&Aのイメージも改善し、多くの中小企業の経営者がM&Aの道を選んでいます。会社の明るい未来を築き、コロナ禍という昨今の危機を乗り越える力として、M&Aが今注目されています。